
なぜ、シャッター通りに、一つの紳士服店が繁盛しているのか。
どうすれば、そんなブランド力が育つのか。
ブランド力が育たない組織の日常。
- 「売上は伸びても、利益が残らない……」
- 「結局、見積もり勝負になってしまう……」
- 「このままでは続けられないという不安が常にある……」
- 「他社と横並びに見られ、選ばれる理由が見えないと言われる……」
- 「価格でしか比較されず、強みを説明しても聞いてもらえない……」
- 「社員に『もっと利益率の高い仕事が欲しい』と言われるが、受けざるを得ない……」
価格競争から抜け出す鍵は『人柄』。シャッター街の紳士服店が教えてくれた、本物のブランド力
なぜ、価格競争が激しい時代に、あえて車で30分もかけて、古びた街の紳士服店に足を運ぶのか?
それは、全国からお客様が来店し、ネット注文も入るお店です。そのお店とは約40年の付き合いになります。先日、そこで礼服を仕立ててもらいました。
「礼服なんて、吊るしで十分じゃないか」「テレビCMに出てくるような店でいいよ」
そんな声が聞こえてきそうですが、その通りだと思います。価格は安いし、デザインも申し分ありません。
でも、私は車を30分走らせてでも、そのお店まで洋服を「選んでもらいに」行きます。そう、単に買いに行くのではなく、選んでもらうのです。それが、そのお店との長年の歴史です。
もちろん、選んでくれる紳士服店は他にもたくさんあります。しかし、この店が選んでくれるのは、服だけではありません。
ブランドを超えて
以前、創業者であるオーナーに尋ねたことがあります。
「なぜ、こんなに繁盛するんですか? 全国からお客様が訪れる理由は何ですか?」
すると、彼はきっぱりと答えました。 「大手ブランドに小さな店が勝つには、お客様一人ひとりに合わせたデザインだ」
「なるほど」と、私は深く息をしたことを覚えています。「大手ブランドに勝つには、小さなお店なりのブランディングが決め手なのか」と直感しました。
しかし、待てよ。こんな田舎で、どうやって一人ひとりに合わせたデザイン力を表現するというのだろうか。亡くなってしまった彼に、もう確かめることはできません。ですが、数年後、その謎を知ることができました。
ブランディングされて選ばれる商品・サービスとは何か
ブランディングされていないとき、お客様が選ぶ基準は価格です。しかし、真にブランディングされた商品やサービスは、価格を超えた価値を提供します。それこそが、本物のブランド力です。
そして、本物のブランド力とは、経営者やスタッフ、関係者の人柄・人格・態度そのものです。商品やサービスとは、彼らの人間性が表現されているにすぎません。
優れた商品やサービスとは、経営チームの人間性のことなのです。なぜなら、お客様に喜ばれ、貢献することが事業だからです。事業とは、お客様と一緒に「真善美」を深めること。そこでは、人間性しか問われません。
紳士服店がデザインしているもの
ところで、全国からお客様が訪れる田舎の紳士服店。その会社が提供していた「一人ひとりに合わせたデザイン力」とは何だったのでしょうか。
紳士服店を営む彼は、『男心』をデザインしたのです。誰でも買えるというブランディングではなく、世界に一つしかない、そのお客様だけの、出かけるときのモチベーションになる洋服を提案しました。唯一無二のオーダースーツやオーダーシャツは、お客様一人ひとりの個性と心情から紡ぎ出されるのです。
それは、一人ひとりのお客様が求める言葉の奥にある「想い」をデザインすることでした。もちろん、そのお店で女性のお客様に会ったことはありませんが、女性スタッフは半数を超えています。彼らは男心に寄り添うトレーニングを受けたプロです。
先代が生きた証
それは先代だから成し得られたことだったのかもしれません。
個別のブランドとは、人間や組織が生きた歴史から生まれるのではないでしょうか。そうでなければ、誰かの真似をするしかありません。そんな中途半端なものでは、価格でしか勝負できない。
時を重ねた歴史が、強いオリジナルブランドを創り出すのでしょう。ビジネスとは、「どう生きてきたのか」の証明に他ならないのではないでしょうか。

